興和生命科学振興財団 設立35周年記念

令和時代の若き研究者へのメッセージ

地方独立行政法人 りんくう総合医療センター 理事長
興和生命科学振興財団 理事
山下 静也

山下 静也

最近では大学医学部を卒業すると、2 年間の初期研修があり、その修了後には専門医を目指した後期研修が始まる。私が大学を卒業した昭和54 年頃は、まず1 年間は卒業した大学病院で研修し、その後2年間は大学関連施設で研修、その後は大学に戻って研究を開始し、医学博士を取ったら海外に留学するか、関連施設に派遣されて臨床医として活躍するというのが一般的であった。しかし、平成16 年に新医師臨床研修制度が出来て、診療に従事しようとする医師に2年以上の臨床研修が必修化され、それに伴って従来は各地域への医師派遣を担っていた大学医局が、特に初期研修医の派遣に関しては全く関与できなくなり、地域の医療体制が壊滅的な打撃を被った。それに起因して、若い医師は自分で行き先を決め、専門領域の研修も行って早く専門医を取得するという傾向が続いている。その結果、大学で研究する医師の絶対数が減り、更には肝心の研究費獲得も大変厳しくなっている。

小生は医学博士を取ってすぐに、米国シンシナティ大学のDepartment of Pathology and LaboratoryMedicine へ留学し、高HDL 血症、特にCETP 欠損症のリポ蛋白分析や遺伝子解析の研究を行った。当初紹介されたラボでは研究環境が十分ではなかったため、American Heart Association Ohio 支部へのグラント申請を行って、自分の給与は自分で稼ぎ、また別のラボに移って、David Y. Hui 先生というPhDのBoss に分子生物学的な技術の指導を仰いだ。このグラント申請のための沢山の英文書類を書くのはかなりの時間がかかったが、これは大変良い経験となり、帰国後も非常に役に立った。最近では専門医指向が強く、研究をやろうという気概のある医師は減ってしまっているが、是非若手研究者には海外留学をお勧めしたい。海外で研究をとことん究めて欲しいし、海外で研究・生活することは国際的視野を広げ、更には英語の上達にも繋がる。経済的には苦しいかもしれないが、家族も海外での生活を楽しむことができるというメリットがある。

海外での研究テーマは留学先のBoss に従わざるを得ないが、海外では技術的なことと、国際的な考え方、英語でのコミュニケーションの習得に専念し、日本に帰ってからの研究テーマは他の人がやらないことを研究テーマにして頑張って欲しい。小生は常々、常識は必ずしも正しくない、非常識ということもあり得るという考えで、自分が臨床経験で疑問に思ったことや初めて経験した病態不明の症例の解析を中心に研究領域を広げていった。「基礎であれ臨床であれ、研究は本当に楽しい」ということを若手研究者には是非感じて欲しい。