興和生命科学振興財団 設立35周年記念

令和時代の若き研究者へのメッセージ

東京大学大学院医学系研究科 腎臓・内分泌内科 教授
興和生命科学振興財団 理事
南学 正臣

南学 正臣

日本は、これまでアジアの科学を牽引してきました。しかしながら、近年日本の研究力の低下が指摘されています。自然科学系の論文については、Top 1%論文は2000 年には日本はアメリカに次いで第2 位、Top 10%論文もアメリカ、イギリス、ドイツに次いで第4 位でした。これが2020 年には中国やインドに抜かれTop 1%論文は第5 位、Top 10%論文は第12 位に落ちています。日本は先進国の中で唯一研究開発費の伸びがない国であり、研究費は中国やドイツに抜かれています。これを反映し、研究者数も先進国の中では増加のない唯一といってよい国になっています。

新専門医制度は、日本の医学研究に更に大きなダメージを与えました。若手医師が研究を開始できる時期が先延ばしになり、「専門医を取れれば、博士号はなくてもよい」という考え方が広がりました。病院の経営を取り巻く環境も厳しくなる一方で、大学勤務医においても診療にかけなければならないエフォートがどんどん増え、その分研究にかけられるエフォートが減少しています。更に、「働き方改革」により、若い世代が研究に触れる機会が減り、若手医師の研究離れを一層加速しています。

日本は天然資源に乏しい国です。石油や天然ガスがあるわけでもなく、ダイアモンドが出るわけでもありません。そのような中で、日本が国際社会で生き残るためには、科学研究に依存せざるをえません。

COVID-19 のpandemic は、医学と科学研究の重要性を我々に強く認識させました。2019 年12 月に報告された新しい病気の原因が、2020 年1 月には明らかにされ、またたく間にそのウイルスの遺伝子配列が全世界の科学者に共有され、1 年でワクチンが開発されました。このことは、現在の科学が如何に進歩しているか、また国際的な情報共有と協力が如何に重要であるかを、示しています。

日本で研究を行う環境が厳しくなる中で、研究を支援してくれる心強い動きもあります。興和生命科学振興財団は、人類の疾病の予防と治療に関する自然科学の研究を推進し、学術の進展と福祉の向上に寄与することを目的に、昭和62 年に設立されました。三輪芳弘理事長と児玉龍彦常務理事の先見性に富む優れたリーダーシップと事務局の皆様のご尽力により、これまで数多くの優れた研究者が助成を受け、その後に幅広い分野で活躍をしています。私自身も、平成29 年から興和生命科学振興財団の理事会に参加させて頂きましたが、理事会の皆様による洞察力にあふれた議論がとても勉強になりました。引き続き、三輪芳弘理事長、児玉龍彦常務理事をはじめとする理事会の皆様にご指導をお願いするとともに、若手研究者の皆様がこのような支援を得て、世界をリードする研究を進めていかれることを祈念しています。