興和生命科学振興財団 設立35周年記念

令和時代の若き研究者へのメッセージ

大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授
興和生命科学振興財団 評議員
下村 伊一郎

下村 伊一郎

興和生命科学振興財団設立35 周年、まことにおめでとうございます。
この度は、「若き研究者へのメッセージ」をということで、次の言葉を若い研究者の皆さんに送りたいと思います。

ニーチェ:「汝の足下を深く掘れ、そこに泉湧く」
ニーチェは19世紀ドイツの哲学者です。人は、つい、隣りや他人、その時代の流行など、が良く見えてしまい、目移りをしたり、自分とはあまり関係のないところで時間をかけたり勝負をしがちになる。大事なことは、自分自身の出所、仕事、周りの仲間にあり、それら我が事を深く大切に思い育てていくことにより、最も充実感のある世界に至ることができる、といった意味だと思います。

私は、学生時代、第2内科の臨床講義で、当時の垂井清一郎教授が患者さんに示される穏やかで優しい佇まいと、松澤佑次先生(後、教授)が熱意を持って語られる内臓脂肪の話に、とても惹かれました。

私が大学院に入った頃、松澤先生の研究室では、腹部CT 画像から内臓脂肪と皮下脂肪の面積を出し、様々な臨床指標との関連を調べられており、学会でも論文投稿しても、決して注目されているというわけではありませんでした。しかしそのような時から、松澤先生は、常に「我々は世界で一番大事なことをやっている。」と言われ、研究室の皆もそう感じ、そして実際に内臓脂肪は国内外でどんどん注目されるようになりました。当時は内臓脂肪蓄積がなぜ病気に繋がるのかは不明でありましたが、臨床的に絶対的に正しい・大切であることを見つけ捉えて、そこから医学者として楽観的に細心に追究していくその姿勢が大切であったと思います。

留学させていただいたゴールドスタイン先生・ブラウン先生も、常に言われていたのは、“It isimportant to decide what to do, but it is much more important to decide what not to do!” でした。自分が一番大切だと思うことに集中せよ、そうではないことを見極め行わないことがとても重要だ、ということです。彼らの真骨頂は、ノーベル賞に至ったあたりの仕事は、毎回、自分達の本分のところをJBC に堅実に出し続け、reference がほぼ自分達の仕事で埋まる、という状態で、彼らはそのような状態を最も誇りに嬉しく思われていました。

先日、「プロフェッショナル 仕事の流儀」というNHK の番組で、歌人の俵万智さんも、
“ むちゃ夢中 とことん得意 どこまでも 努力できれば プロフェッショナル ”
と詠まれていました。

何か本当に自分が大切だと思うことを見つけ、そこを一生懸命やっていれば、この上ない人生のご褒美と思えるようなとても素敵なプロフェッショナルな人達に逢うことができます。生物の中で、人として生まれてきた者だけが味わい得る極上の愉しみです。

そういう意味でも、「汝の足下を深く掘れ、そこに泉湧く」は至言だと思います。
皆さんが、研究者人生の中で、そのような方々に多く逢われることを心から祈り、応援しています。