興和生命科学振興財団 設立35周年記念

令和時代の若き研究者へのメッセージ

公益財団法人東京都医学総合研究所
視覚病態プロジェクト プロジェクトリーダー
原田 高幸

原田 高幸

興和生命科学振興財団様の創立35 周年を心よりお祝い申し上げます。私が研究助成を頂いたのは2003 年ですから、もう20 年も前のことになります。その時のテーマを確認すると「神経栄養因子を用いた網膜変性疾患の新規治療法の開発」となっていました。おかげさまでその翌年には研究室を立ち上げることができましたが、現在でも「神経栄養因子」と「網膜変性疾患(緑内障)」に関する研究は継続しており、これも研究助成を頂いたおかげと心より感謝しております。

今回は若手研究者へのメッセージという趣旨ですが、私は眼科医であることから、特に若手医師にエールを送りたいと思います。最近は専門医制度の影響などもあって、大学院に入る臨床医や研究医が減少しているそうです。どの診療科でも短期間に様々な診断・治療機器が新規に導入され、習得すべき手術法なども増加の一途ですから、特に基礎研究が敬遠されるのは仕方がないかもしれません。しかしprecision medicine が定着しつつある現代では、遺伝子診断や抗体医薬、遺伝子治療などの仕組みをよく理解する必要があります。さらに今後は再生療法などがどの分野にも浸透してくることが容易に想像されることから、基礎研究で培われる知識の有用性は、今後ますます高まると言っても過言ではないと思われます。

幸い私の研究室では多くの眼科医や大学院生に参加して頂き(写真)、臨床に密接に関係した研究を継続することができています。彼らに聞くと、大学院に入ると同期よりも専門医取得時期が遅くなるため、それだけでも少し躊躇するところがあったようです。しかし最短期間で専門医を獲得することがゴールではありませんし、患者さんの側もそういう方ばかりを求めている訳ではありません。患者さんにも多くの理系出身者がいらっしゃるので、かなり専門的な説明を求められることもしばしばです。特に神経変性疾患など、治療効果が出にくい疾患ではなおさらではないでしょうか。こういう方々の通院や服薬のアドヒアランスを高める上でも、最新知識の習得や研究の継続が重要であると思われます。

また基礎研究者についても、近年では日本の博士号取得者が主要国では唯一、減少傾向にあるそうです。「質の高い科学論文数」については上位10 カ国にも入れない状況です。さらに海外留学者数も減少していますが、逆に中国などからの米国留学者はむしろ増加傾向にあり、このままでは日本の研究力が相対的に低下することを心配する向きもあります。最近は留学しなくても国内で十分な環境が整っている面もあるのかもしれませんが、留学中にできた友人等から刺激を受けたり、その時の経験が生涯に渡って生き続けることは良くあることです。直近の収入などを考えるといくらか問題がある場合もあるかもしれませんが、是非若いうちに良い経験をして頂けたらと切に望みます。この文章を書いている現在、1 ドルが150 円近くになったことが話題になっていて、ややタイミングが悪いかなと思いつつ、私からのメッセージとさせて頂きます。