興和生命科学振興財団 設立35周年記念

令和時代の若き研究者へのメッセージ

兵庫医科大学 循環器・腎透析内科学講座 臨床教授
朝倉 正紀

朝倉 正紀

今回はこのような機会を頂けましたことを関係各位にまず御礼申し上げます。私自身、皆様に何かを伝えるような業績を残せているわけでなく、偉そうなことを伝える身分ではないのですが、将来の日本を支える皆様への思いを伝えさせて頂こうと思います。

今後のキャリアパスに不安を持っている研究者も多いかと思います。そこで私のキャリアパスを振り返ってみます。最初の研修を大阪警察病院で、血管内視鏡という我が国独自のモダリティを使った臨床および臨床研究を中心に行いました。そのあと、大阪大学大学院に進み、分子生物学を用いた基礎研究を経験させていただき、その経験をもとに米国に3 年弱留学しました。留学後は指導教官が国立循環器病研究センターに異動したのに伴い、私も同センターで基礎研究から大規模臨床試験と多くの経験を積むことができました。その後、現在の兵庫医科大学で心不全を中心とした臨床に戻った一方、過去の経験を評価していただき、臨床研究支援センター長としての要職も兼務させていただいております。このように、臨床・基礎研究・臨床研究と多岐にわたる経験を積むことができたわけですが、与えられた環境に対して、実直に精一杯尽力してきたことが良かったと思っています。今の環境を不安に思っている方も多いかと思いますが、限られた時間の中で、精一杯与えられた環境やテーマに対して、真剣に向き合ってほしいと思います。

さて後半は皆様にぜひ頑張って研究に尽力して欲しい理由を書かせていただきます。我が国の医療レベルは世界トップレベルであることは言うまでもありませんし、基礎研究においても世界トップレベルにある分野も多くあると思います。一方、我々が研究してきた時代と違って、今の時代は研究をする競合相手の数が驚くほど増えています。そのため、生半可に研究をするだけでは世界で評価してもらえなくなっています。私も含め、皆さんの指導者はまだ競合相手が少ない時代に研究をしていた方も多いので、そのような指導者の下で研究を進めていると、世界に対峙することが難しくなってきていると感じます。そのため、ぜひ留学という研究者に与えられた特権を行使してほしいと思っています。インターネットの普及で海外の情報が容易に手に入る時代となり、留学の必要性が薄まってきているといわれますが、私はそう思いません。留学はもちろん新たな手技や情報を習得できるメリットがありますが、それに加えて世界の情勢を把握でき、日本にいるだけではわからない多くのことを、留学するという行動だけで得られます。文字や動画などの画面からの情報だけでは得られない、直接の五感を通してだけ得られる情報があり、それを感じることが各研究者にとって貴重な経験となり、我が国の将来にとっても極めて大切だと思っています。

今回は悲観的なことは書かずに、楽観的な前向きなことを書こうと思って書いてきました。先が不透明な時代が到来している今だからこそ、次世代の我が国の医力の根源となる優秀な人材が求められています。子から孫へと世界トップレベルの臨床や研究の実力を維持し発展できるように、ぜひ研究を頑張ってください!期待しております!