興和生命科学振興財団 設立35周年記念

令和時代の若き研究者へのメッセージ

京都大学大学院医学研究科 腎臓内科学 教授
京都大学高等研究院 ヒト生物学高騰研究拠点 兼任
柳田 素子

柳田 素子

このたびは貴財団設立35 周年、まことにおめでとうございます。

人類の疾病の予防と治療に関する自然科学の研究に対して助成を行うという貴財団のご趣旨は、この 35 年の間に、多くの若手研究者を勇気づけ、自然科学の発展を支えてこられたことと思います。私自身 も独立したてのPI であった2007 年に本助成をいただきましたが、この助成金をとてもありがたく思い ますとともに、選考委員の先生がたから大きな励ましをいただいたような気持ちになりました。

それから15 年が経ちましたが、若手研究者をとりまく環境は当時よりも厳しくなっているように感じ ます。1本の論文に要求されるData 量は15 年前とは比較になりませんし、トップジャーナルに掲載さ れるような網羅的解析主導のアプローチは、若手に限らず、一研究者の資金力では太刀打ちできないも のです。

ただ、日本には、その研究力が欧米には到底叶わないと言われていた時代にも、ユニークな視点から 独自の研究基盤を築き、世界の尊敬を集める先人が多くおられました。その先人の示してこられた研究 姿勢とオリジナルな視座を学ぶことで、なんとか一矢報いるような研究ができればと思っております。

コロナ禍が始まって早3年になりましたが、この間に、克服したかのように思っていた感染症が猛威 をふるい、世界中で多くの方々が亡くなられ、あるいは後遺症に苦しみ、医療が逼迫する現場を目の当 たりにしてきました。そして、それと同時に、mRNA ワクチンの開発が世界中の人々を救い、症状を和 らげ、再び日常生活を取り戻してくれる瞬間を目撃しました。世界中の研究者や医師が1つの感染症に 向かって知恵を出し合い、克服する瞬間を体感したことは、私にとって大きな経験でした。

研究を通して人と繋がり、チームを作り、1つの目標に向かって共に知恵を出し合い、課題を克服し ていく。そういった過程こそが研究の喜びであることを改めて実感するとともに、そのためには良いネッ トワーク作りが鍵であることを痛感しています。本助成金を受賞された先生がたが互いに繋がることで、 強い研究ネットワークが生まれ、さらなる研究の発展の基盤となることを願ってやみません。

末筆になりますが、貴財団の運営、助成選考に携わる先生がたのご尽力に心よりの敬意と感謝をささ げ、貴財団のますますのご発展をお祈りし、私の拙文を終わらせていただきます。