興和生命科学振興財団 設立35周年記念

令和時代の若き研究者へのメッセージ

順天堂大学 循環器内科学講座
清水 逸平

清水 逸平

私は2010 年に「心不全増悪因子としてのインスリンシグナル」という研究課題で採択をいただきました。2010 年は母校である千葉大学大学院を卒業した年でもあります。4年間の大学院時代は大学病院及び関連病院での診療、研究、研究会や学会、幼い子供たちのケアなどで多忙な日々を過ごしておりました。バスケ部で培った体力勝負で乗り切った感はありますが、基礎・トランスレーショナル研究の魅力に大いに知的好奇心をかき立てられました。ひとつ山を越えると次の山が見えてきて、更にその先はどうなっているのであろうという探究心を持って日々過ごしていると、研究会などで同じ志を持つ学内外・国内外の先輩、同期、後輩研究者に出会い大いに勇気付けられました。国籍を問わず研究仲間を作る秘策は独創性の高い研究をすることに加え、研究会などでとにかく質問をすることにあります。若手の皆様、仲間を得るためのツールだと思って、是非臆さずに機会を見つけて質問してみましょう。

老化と関連するシグナルとしてインスリンシグナル経路が重要ですが、過剰なインスリンシグナルにより心不全が発症、進展することを私は明らかにしました(J Clin Invest 2010)。さらに研究を発展させ、血管内皮の老化や(J Mol Cell Cardiol 2015、2019、Sci Rep 2021)、脂肪の老化により心不全や肥満の病態が促進することを報告し(Nat Med 2009, Cell Metab 2012、2013、Sci Rep 2019)、総説にまとめる機会を得ました(Cell Metab 2014 他)。2012 年から2年間ボストン大学医学部のKenneth Walsh先生のラボに留学する機会を得ました。褐色脂肪は活発な代謝臓器として重要ですが、肥満に伴い機能が低下することが報告されていました。その機序はよくわかっていなかったのですが、肥満ストレスに伴い血管新生因子(VEGF-A)のレベルが低下することが主要な機序であることを明らかにしました(J Clin Invest 2014)。帰国後も褐色脂肪の研究を続け、神経伝達物質(Cell Reports 2018)や、血液凝固因子を介した機序(iScience 2022)により褐色脂肪不全が生じることを報告しました。他にも心不全治療ノンレスポンダー群(Sci Rep 2021)、選択的老化細胞除去(Nature aging 2021、Sci Rep 2022)、解糖系とベージュ脂肪細胞の関係(iScience 2022)について報告する機会を得ました。

これらの研究を通して、様々な特性を有した臓器がほぼ同じ時相で機能低下をきたすメカニズムを明らかにしたいと考えるに至りました(「加齢同期」という概念を提唱;清水逸平)。拡張不全型心不全、心房細動、非アルコール性脂肪性肝炎は肥満や加齢とともに罹患率が上昇する線維性疾患です。これらを「加齢関連線維性疾患(Age-Related Fibrotic Disorder(A-FiD))と包括的に定義し、疾患横断的な治療法を開発したいと考えております(受賞;全米医学アカデミー2020 年)。

私の研究のモチベーションは、心不全に対する革新的治療法を開発することにあります。老化制御及び全身の代謝制御により加齢性疾患の病態を抑制し健康寿命の延伸を図れるかという問いに今後も挑み続けたいと思います。これまでメンターとして指導していただいた小室先生、南野先生、Walsh 先生、及び一緒に苦楽を共にしたラボの仲間にこの場を借りて感謝いたします。寝食を忘れて夢中になれる研究課題や仮説に若手の皆様が出会えることを祈念して私より若手の研究者へのエールのメッセージとさせていただきます(以下もご参照くださいhttp://www.mol-aging.com/、https://www.u45ishr.com/)。