興和生命科学振興財団 設立35周年記念

変化と転換、そして寄り道を楽しもう

大阪大学 医学部/ 大学院医学研究科
河盛 段

河盛 段

科学研究を志された若手研究者の皆様へ

この激動といえる令和時代、これからの研究生活においては、社会の動きに伴い所属機関のみならず、地域や国、また分野や内容についても変わっていくことも多くなりますが、まずその「変化」を楽しんでみて下さい。想定通りや現状維持は安定性も高く、様々な面で心地よく感じる一方、様々な変化はストレスに感じることが多いです。しかし、研究においては「変化」は「チャンス」となります。新たな環境で多くのことを吸収し、人と出会い、一層の躍進が得られます。そして是非、一度は海外での研究生活を経験して下さい。誰もが言う「人生最高の時間」となる刺激的な日々が待っています。環境も常識も立場も異なる様々な国からの多くの同僚とともに、共通の目的である研究に取り組みます。個人的な話で恐縮ですが、米国での研究時、これまでの臨床医に取り囲まれた生活より外れ、全く異なった考え方を持つ世界中からの基礎医学研究者と話をしていると、自分がいかに臨床医学を中心においた考え方をしているのかを実感すると同時に、基礎医学研究に臨床的観点を加えることの重要性、その強みが見えてきました。また、世界を相手にする大切さとともに、日本での研究の利点、一方で弱点や改善点も見えてきます。確かに環境の変化による不安もあるでしょうが、過ごすうちにそれを上回る多くのことを学び、感じ、そして自らの自信に置き換わって行きます。それに伴い、研究の進歩のみならず、自らも日本人から「世界人」へと進化することができます。

また、予想を裏切る研究結果など、内容や方向性において大きな転換を迫られることも多いでしょう。これらは一見、立ちはだかる高い壁に見えますが、実はこれを越えることで、研究をそれだけ高いところまで上げられる機会に他なりません。また、このような「変化」や「転換」は研究を進めるうえで、また海外生活は研究キャリア構築においても一見、無駄な「寄り道」のように見えるかもしれません。しかしこのような「寄り道」をすることで、自分の視野を広げ、先の道程が見えてくることも多くあります。これまた私事ですが、米国での研究テーマの大きな転換、また予想を覆す結果、いろいろと苦労もしましたが、それが現在の研究的個性の確立に繋がり、考えてもいなかったライフワークとなりました。

この度は財団の35 周年、誠におめでとうございます。私を含め多くの研究者が、財団のこれまでの多大なるお力添えにより研究を続けることができています。若手研究者におかれましては、多くの人々が皆さんの挑戦をいつも応援してくれていること感じて頂きたいと思います。そして将来、研究を通じて未来の科学発展に貢献するとともに、変化と転換、そして寄り道を楽しみながら自らの素晴らしい人生を紡いで行かれることを祈念しております。