興和生命科学振興財団 設立35周年記念

令和時代の若き研究者へのメッセージ

自治医科大学分子病態治療研究センター 分子病態研究部 教授
西村 智

西村 智

僕は1974 年に生まれ、医者から基礎研究者に転身し、今は技術開発や特許作成を生業としています。詳しい仕事はwww.satoshi-celica.com をクリックされてください。高齢化のなかでの研究のあり方について少し書いてみます。

僕が生まれたときには日本の年齢中央値は29 歳でした。そのあと、40 年ほどたった結果、現在の平均年齢中央値はプラス20 されました。現実の時間の流れに対して、日本は半分の割合で同時に年を取っていきました。よく言われる数字ではありますが、現実として、日本が自分の50% のスピードで「老いていく」ことは驚きでした。

医療をはじめとするインフラの内容も、大半が高齢者対応にシフトしました。疾患を発症するかたも、手術を受ける方も、犯罪を起こす方も、貧困に苦しむ方も、豊かな方も高齢者になったわけです。

同時に、技術を持っている方は、研究においても産業においても、シニア層になり若いかたが直接学ぶ機会は本当に減りました。例えば、僕は自分が作る機材をC# 言語でコーディングしており、自分のweb はjavascript, html, webGL で作っています。年に書くコードは10 万行をこえます。とはいえ、同じように、コードを書く教授がほかにいるでしょうか。情報学科でもまずいないと思います。学生からもよく聞く声で「コーディングを教えてもらえる人がいない」と。それが現実です。「誰かにやらせている」か「やったことがある」ひとしかいないのです。だからこそ、若い人には、本当に中身を知っているひとを見極める力、活発なweb での活動など、あたらしい能力があらためて求められています。

産業の空洞化が進み、ハードの大量生産は日本ではまず行われていません。ソフトですら書く人が少なくなりました。一方、研究にせよ産業にせよ、デザインをするだけであとは誰かがやってくれる、というほど日本は豊かではありません。非常に中途半端になっている日本において、論文が出なくなっているのは当然なのでしょう。

若い方に蔓延する、「絶望感」は、こういったことに起因します。解決方法がないわけではないです。単純に、日々の仕事をカタチにすることです。自分自身の普段の記録をすべて形にし、他人がみて面白く・わかりやすいかたちのコンテンツにしてweb にあげてみてください。外資企業の動画プラットフォームではなく、自分の作ったweb で公開です。宣伝したり、評判を気にする前に、コンテンツをよくすることだけを考えつづけます。おそらく、オンラインジャーナルに投稿された論文よりも強い影響力を最終的に持つことになるでしょう。僕はそうやって名前を売ってきました。

先輩がやってきた、論文や日本の学会をステップにするやりかたは弱体化しつつあります。

COVID はそれを加速しました。だからこそ、新しいステップができる方には道が開けるはずです。

この文章が実際にどの程度若い方に読まれるかはわかりませんが、何かのきっかけになれば、とおもって文章を書きました。詳しいことはいつでもメールでもいただければお答えします。よい研究生活を望みます。