興和生命科学振興財団 設立35周年記念

2021 年度 緑内障病態におけるエピトランスクリプトームの解明

東北大学加齢医学研究所 モドミクス医学分野
小川 亜希子

小川 亜希子

2021 年度に研究助成に採択していただきました東北大学加齢医学研究所の小川亜希子と申します。私自身が「若い研究者」のつもりですが、もう次世代の研究者へメッセージを送る立場なのか・・・と年月が経つ早さを感じております。

私は2014 年に熊本大学眼科に入局して後期研修を行い、当時の教授でした谷原秀信先生、そして現教授の井上俊洋先生のお二人から基礎研究の道に誘われ翌2015 年に大学院に進学しました。熊本大学眼科は伝統的に緑内障基礎・臨床研究が盛んに行われており、私も漏れなく緑内障研究の魅力にどっぷりと浸かった幸せな大学院の4年間を過ごしました。その中には抗緑内障点眼薬リパスジルの基礎研究と臨床研究も含まれます。特にリパスジルの基礎研究は自身がはじめて採択いただいた論文であり、アクセプト通知が来たときの気持ちの昂りは今でも鮮やかに思い出すことができます。

緑内障は本邦の中途失明原因の第一位を占める慢性の視神経障害であり、治療の進歩にもかかわらず原因が不明であり現在も失明者が増え続けております。この失明患者を一人でも少なくしたい思いでこれまで診療と研究をライフワークとして取り組んで参りました。

自分が行いたい研究を遂行するためには、環境要因(職場、研究費獲得など)と人的要因(上司、同僚、後輩、共同研究者、同世代のライバルたち)は言うまでもなく大切ですが、加えて継続することの難しさと重要さを痛感しております。研究生活では山あり谷ありで、世界ではじめて新しい知見を発見した時など心が震えるほど感動する瞬間もあれば、その直後にネガティブ実験データの山に囲まれたり、自身のミスで大事な実験を失敗してしまったり、あるいは自信をもってサブミットした論文が呆気なくリジェクトされたときなど無力感に苛まれ、様々な気持ちが喪失しかかってしまうときもあります。ちょうどそんな先日があったのですが、ふとかまやつひろしの「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」という曲を聞いていて「できることなら一生赤ん坊でいたかったと思うだろう そうさすべてのものが珍しく、何を見ても何をやっても嬉しいのさ そんなふうな赤ん坊を君はうらやましく思うだろう」という歌詞にはっと気付かされ、初志貫徹で頑張ろうと改めて思った次第でした。フレッシュな精神を持ち継続し続けることは非常に難しいですが、最も価値があることなのだと今ひしひしと感じております。

研究を通じて様々な社会の課題と向き合い、真に価値のある生体の仕組みを解明することで社会に還元・貢献できるかを考えながら今後も精力的に研究を展開していきたいと思っております。今回助成に選んで頂き、新しい眼内液性因子の緑内障病態研究を精力的に行うことができましたことに心より感謝申し上げます。研究継続と発展の大きなモチベーションになりました。